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  • 2019年5月11日
  • 読了時間: 5分

ニュルンベルグを軸に活動するIglのスタジオ


この頃になると、ぎちぎちに詰め込んだスケジュールのお陰で、かなりキツイ日々を過ごしていたかと思います。この日は起点としていたデュッセルドルフから、朝7時の飛行機でニュルンベルグに来ました。目的はこの人、Igl(イーグルと読みます)のスタジオに来るためです。IglはイギリスのSound on Soundでの執筆をはじめとして、ヨーロッパではかなり知られている人物です。また、ヤマハの仕事でドイツ語から英語への翻訳をしているとのことで、英語単語がやたらに難しかったのも覚えています。余談ですが、たまに聞くことのある英語に日本語みたいな表現力がないなどというのは、ちょっとした噂話みたいなもので、実際は日本語よりも精密に英語が表現できる部分もあったりします。表現の手法が違うだけで、実際はその殆どを精密な語彙力によって英語は説明してきます。語彙力という分野だけで考えれば、むしろ英語のほうが日本語よりも数があるはずです。

さて、少し話がそれましたが、翻訳の仕事をしているIglだけあって、やたらに語彙の難しい英語を話す彼ですが、そのエンジニアリングというものは素晴らしいものがありました。当初は彼から勧められていた機材を見に来た部分もあったのですが、むしろ自分よりも若手のエンジニアに自らの経験と知恵を授けるような話し方をしてくれていました。

Iglが使用していたのは、ドイツ国内で作られたというコンソールでした。EQもコンプレッサーも付帯していて、非常に素直な音色だった印象があります。様々に彼が手掛けた案件を聴かせてくれ、兎に角何もかもがレベルが高いと印象付けられたスタジオワークでした。特にフュージョン系のサウンドを聴かせてくれた折には、正にImpressive soundingという印象を受け、スネアがど真ん中で鋭く楽曲を刻む様相は、

『このレベルの曲を、日本で今後聴くことがあるのだろうか・・・』

と心に思ったことを覚えています。

ハードギアについても様々に話してくれました。コンプレッサーの考え方、バスに掛けるとき、アイソレートのトラックに掛けるとき、スネアは?キックは?・・・世界を席巻する楽曲の構成方法を、次々に話してくれました。こういう場でまずは音に触れないと、本来行き付かなければならない境地へは中々辿り着かないな・・・とも感じました。

休憩でスタジオの表に出ると、目の前が美しい湖です。昼食が終わったころには、時差ボケと疲れでもうヘロヘロでした。余りにきつかったので、30分貰い仮眠させてもらいました。

本当にきれいなところです。

さて、スタジオに戻り今日の本題のAD/DAコンバーターの聴き比べに入りました。Iglは再三にわたって、シグナルの強いAD/DAコンバーターについてメールで話しかけてきてくれ、

『今でも十分に満足している』

という趣旨の発言をしてきたのですが、彼がどうしても聴いて欲しい機材があるとのことで、このスタジオにやってきたというところもありました。そしてAVIDやSSLのコンバーターを聴いたのちに、

『さあ、これで聴いてみよう』

という話になり、楽曲を流してもらった折に僕は、

『バスにコンプレッサーが掛ったままだよ』

と言いました。彼は大笑いして、何もないという仕草をし、どれほどそのAD/DAコンバーターが優れているかを語り始めました。輪郭がはっきりしており、明確な発音から聴きとれる微細な音というのは、あまり聴いたことのないサウンドと言えました。確かに、これまでもキックやベースが飽和状態に近づき、スペクトラムのゲージでは十分な低音が出ているように見えても、どうにも物足りなくハードギアのEQで上げようとして全然足りない・・・そんな経験をしたことはありました。それがIglが使用しているというコンバーターを使用したところ、所謂飽和状態というものは全く起きなく、強力な音色の中にも一つ一つの楽器がしっかりと浮き上がる力強さを持ち合わせていました。これはコンバーターが150dBものレンジを持ち合わせているとのことで、SPLの120vフォーマットの機材群同様、とてつもないダイナミックレンジが奥深い音を作り出す新時代へと突入していることを知ることが出来ました。

そのコンバーターがどのメーカーのものなのか・・・などの情報公開は、エンドーサーの話ももらっていますので諸事情がハッキリしてからにしたいのですが、次世代の音というものは常に新たに作り続けられていることを改めて感じさせられました。常にこうしたアップデートというものを続けながら、非常に多くのケーススタディを持ち合わせている魅力はとてつもないと感じさせられます。このドイツ国内を中心に進められる最先端の音作りというものを、イギリスやアメリカが追いかけることで、世界のスタンダードが作られるという仕組みが出来上がっています。なぜドイツがここまで強いのかを再度垣間見ることが出来ましたし、彼らの優秀さというものを再確認することもできたIglとの時間でした。

絶版になった名機もあり、色々と面白いものを見せてくれました。

スタジオを出ると、直ぐに湖というのは何とも言えない落ち着くムードを漂わせています。

お伽の国のような風景が続くニュルンベルグでした。

大好きなドイツのペッパーソース・ステーキ

デュッセルドルフへの帰りの飛行機は、何故かプロペラ機でした。今まで何百回と飛行機に乗ってきましたが、プロペラ機は初めて乗りました。因みにヨーロッパ内での飛行機は、ユーロウィングスを使いました。

非常に関係の深いelysia社が、Instagramに投稿してくれた写真です。気が付けば、すっかりelysiaのエンドーサーとしての地位も定着して、同社の機材においてのヘビーユーザーという認識と、その音を理解する人間として世界中で情報が共有されるようになりました。最初に当時経営者だったドミニクが手を差し伸べてくれ、世界の中での知名度が上がることで、各国のマスタリングを担当するようになりました。そのドミニクが去ったelysiaとは、勿論ルーベンCEOをはじめとする方々との関係性は何も変わりはないですが、改めてここまで来て感じるのはドミニクの存在が大きかったということです。自分が口を出す立場にもないですし、勿論ルーベンは素晴らしく良い人ですが、なぜあの二人が袂を分かつことになったのか、未だに分からないものが沢山あります。最近ではヨーロッパでの活動がアメリカに情報が飛び火し始め、興味を持って見てくれているアーティストから様々なコメントを貰います。ヨーロッパを抑えれば、USは難しくないことは知っていましたが、そのヨーロッパでの活動のきっかけをくれたのもドミニクでした。

もう少し明るく書くつもりだったのですが、物事が上手く行けば行くほどに、この喜びをドミニクと共にできない悲しみがこみ上げてきます。Facebookでもつながっていますし、メールアドレスも知っているので、情報は共有されていますが如何にせよこの瞬間を一緒に喜ぶことが出来ないのは痛手です。

思えばプラグインでelysiaを知り、ハードギアに興味を持ち始めた折、バークリー音大でelysiaの話が出た折には生徒たちが最高峰の機材として賞賛していました。アメリカ人は、ヨーロッパへの憧れが非常に強く、こうした背景からも僕はヨーロッパを目指したのだと思います。そして今や10社に上る勢いでエンドーサー契約を持ち、各国から送られてくる音源を制作しています。

本当に戻ってきて欲しいドミニクですし、彼と再度『世界を驚かせてやろう』という企画を立ててみたいです。

オランダのVacuvox

SPLの後には、オランダにやってきました。前日にベルギーのDanところへ行った際、写真のコンプレッサーVacuvoxを、製作者であるBerryがDanのスタジオに同日に持ってくる旨を話していて、Berryとは非常に近くをかすめていました。同時に世界を見渡しても、トップの方で活動している人たちというのは多くなく、限られた世界であることも再確認させられました。

さて、本題のVacuvoxですが、製造場所であるオランダ・アムステルダムに到着したのは、予定よりも2時間くらい遅れてのことだったと思います。Google MapでSPLからの距離と所要時間を検索したところ、2時間と出ていたので安心していたのですが、実際走ってみるとかなりの渋滞に巻き込まれ4時間ほどかかったことになります。高速道路は全て無料なので、途中何度か乗り降りしながら走りましたが、渋滞回避といってもその景色が非常に美しかったので余り苦になりませんでした。

どうしてここまでしてアムステルダムまで来たのかというと、近年急激に成長したAbby Road Studio Instituteを見学することが含まれていたので、Vacuvoxのコンプレッサーに興味があるのと同時にAbby Roadがある以上、次回来れるのは何時になるのか分からないというところもあり、何としてでも到着する必要がありました。

Abby Road Studio Institute in Amsterdam の CEO Berryと共に。


始めて行くアムステルダムでしたが、いきなりドイツから車で入り都会のど真ん中に到着してしまい、相当に緊張しました。全くの見知らぬ国に車で入り、交通法規もそこまで分かっているわけでもないのに、東京のような混み方はしませんが、自転車がそれなりに往来しており汗だくになりながら何とか一時的に車が停められそうな場所を見つけて停車。Berryに電話をして迎えに来てもらいました。ハンサムでクルーザーでの航海が似合いそうな彼が目の前に現れて、地下駐車場に車を停められたときは本当に安心しましたっけ・・・

Abby Road Instituteと同じビルの一階にBerryの工房があり、正直なところ『ここでこの機材を作っていて食っていけるのかな・・・』という感じでしたが、急に彼が『君はハーバードで学んだ、エンターテイメントのビジネスマンだよね。僕もそうだ』と言い出したので、何のことだ??と思っていたところ、話を進めるとAbby Roadを運営しているのは彼だということが分かり、それなら話の辻褄が合う・・・というところで更にVacuvoxに話を集中して聞くことが出来ました。

実際にVacuvoxの音を聴かせてもらったところ、相当にパワフルな音がしており、特に低音の締まりというものはとてつもないものがありました。これは確かに、機材に煩い自分の周りでも導入する人がいるわけだ・・・と納得してしまうほどの出来でした。既に相当数の機材を聴いてきていますし、友人たちも世界のトップで活躍する人ばかりという状況の中で、特段感動モノの音を出す機材というのは減ってくる傾向にあります。また、凡そ機材メーカーも何処が好きでどういう方向性が良いのか・・・というものも見えてきますので、中々『これ』というものを探すことも難しくなってくるのですが、このVacuvoxは素晴らしいものがありました。そして話もそこそこにAbby Road Instituteへ。

このドアを開けると、それはそれは厳つい感じのミュージシャンたちや、個性的な人たちであふれかえっていました。こういう環境で揉まれれば、一流のスタジオワークが可能になるだろうな・・・と思わせるシチュエーションです。もっとも僕自身も、海外からのクライアントたちを相手にすることで、揉まれた部分は多分にあるので、個性が強く意見をガンガン言うタイプと仕事を共にするというのは最も成長するかと思います。

Abby Roadらしく、中央に鎮座するSolid State Logic Duality。注目したいのがBeyerのヘッドフォンで、ヨーロッパのスタジオはその殆どがBeyerのヘッドフォンが使われています。全くもって激しい解像度を持っているヘッドフォンとは真逆の性格で、この辺りからも音の感じ方・考え方というものを伺い知ることが出来ます。

レッドブルスタジオも、同じビル内に所在します。Abby Roadは教育機関としての立ち位置で、レッドブルは商業スタジオとしての機能を主たる業務としているとのことです。

アムステルダムの町並みは本当にきれいでしたが、実質上滞在したのは3時間前後だったかと思います。通常外国に滞在する折は、ビザの関係で最低2日間ステイする必要がありますが、陸続きでEUという枠組みの中に入ってしまえば、パスポートフリーで横断が自由ゆえにできた技と言えます。自分としても、初めての国に自分の運転で入国したという経験は初めてでした。

また、ドイツからオランダに高速道路でそのままつながっていますが、途中アムステルダムに到着する道すがらというのは、アメリカのテキサスよりも遥かに巨大な道を走りました。テキサスは一時期通った地域から、高速道路は幾度となく走っていますが、オランダのほうが遥かに広大な土地を思わせるものがありました。恐らくはヨーロッパという離れた土地柄もあり、日本にはあまり情報が入ってこないのかと思います。強くて大きなアメリカというイメージですが、広大さという意味ではヨーロッパのほうが遥かに大きなスケールかと思います。

美しいオランダの田舎道


所変わって、アムステルダムの街中


アムステルダムの街中を、車で走りBerryの待つビルまで走る。


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