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  • 2019年12月12日
  • 読了時間: 3分

ヨーロッパから帰ってきてから、時差ボケを含めて体調を戻すことと、その間も世界各国からのアクセスの量に翻弄されています。日韓ワールドカップのミキシングを担当したホルガーが、自ら作った真空管EQを導入することになり、その交渉を進めると共に、そもそも売ったことのないワンオフ物ということで、作ってみてからパーツ代が決まるという、何ともインディーズ感溢れるEQですが、物凄く楽しみな一作であることに違いありません。世界の中でも最も多くの機材を所有する部類に入る当スタジオでは、既に機材は満杯の状態ではあるのですが、それでも聞いたこともないような機材が世界中からプレゼンテーションされてきます。プロトタイプの開発もその中には含まれており、実際に素晴らしかったもの、そうでなかったものを率直に回答していく仕事も担っています。アクセスは圧倒的にヨーロッパが多いのですが、未だに『こういう機材もあったのか』というメーカーからのアクセスがあり、またそれが何とも魅力的なものであることも多々あります。

世界の中で徐々に地位を上げ、今日に至るわけですが、現在のポジションまで来ると正に世界中からアクセスを頂くようになります。それは単に仕事という内容だけではなく、機材の考え方や本来の使い方、そしてこちらが参加した楽曲の仕上げ方など、エンドーサーとして回答しなくてはいけない内容は山ほどあります。アメリカやヨーロッパの国々のエンジニアやプロデューサーが、当スタジオで施したマスタリングやミキシングを解析し、どの機材がどのように使われているのかを詳細にわたって聞いてきます。

例えばこのバンドのギターリストでプロデューサーのArvid Löwensteinは、以前当方の参加作品を詳細に解析して、クリスタルトーンと感じることのできた音色を再現しようとしたとのことでした。この規模のバンドが、当スタジオの音色をコピーしてくれようとしたのは正に嬉しいことですし、欧米のスタジオと対等に競争を繰り広げるに相応しい一例だと感じています。

今まで国内の音楽産業は、あくまで欧米を追いかけるという姿勢に終始していましたが、このように日本発で世界の舞台で対等な形で新しい音の価値を作り上げ、そしてヨーロッパ・アメリカ側から追いかけられるような立場で、スタジオワークをこなす会社もあるということは産業全体を考えるときには、非常に重要であると感じています。特に20代の年若い皆さんの間では、素直に当スタジオの存在というものを知ってもらうことが出来、頻繁に利用して頂くことが増えています。

グローバルの一員としてのスタジオワークは、確かに何もかもが異次元です。感性、技術力、才能、想像力、センス、知能、芸術性とありとあらゆるものの能力を持ち合わせた人たちが、青天井で待ち受けています。でも、国内で感じるような閉塞感や限定的な考えは存在しなく、兎に角全力投球で開放的な世界で楽しむこともできます。そんな音の世界、音楽の世界を紹介したいと常に願っています。冒頭に書きました日韓ワールドカップのミキシングを担当したホルガーとも、普通にパートナーの家に遊びにいった折、彼が待ち受けていて一緒に食事をしてビールを飲んだ仲です。数十億人に音を届けた人から、直接話を聞くこともそう難しいことではありません。耳を信用され、感性についてリスペクトをされれば、そこには無限に広がる可能性が待ち受けています。それがグローバルであり、世界規模と言えるでしょう。

夏から制作を進めていた、井谷俊二名誉教授のアルバムが発表となります。当社のレーベル『Antique Haus』としては、CDといったフィジカル系の物販は行わない方針で、今回はメジャー系列の配信のみの設定でリリースとなります。これは世界の潮流として完全に原版の扱いを物販で行うという商流が終了しており、国内だけが未だにCDという文化が根強い背景がありますが、それでも既に日本は世界第3位の市場を持つ配信の商圏となりました。そうした背景からも、ハイレゾレコーディングされた今回の音源は、ハイレゾをダイレクトに聴くことの出来るシステムである配信に限定することは、意味も意義もあると感じています。楽曲を単に作る創る、売る売るでは商品価値もアーティストの価値をも押し下げてしまう結果になり、これはグローバルに沿った価値創出が出来ないと判断できます。これまではリリース・デビューと言えば、何とかフィジカル(CD、テープ、レコード)をリスナーに届けるという仕組みでしたが、今やだれもが使用しているインターネットを介して、万人に向けて音楽を届けるという仕組みに大きく変化しました。そして世界中の人へ一気にアクセスが可能になったわけで、物販という文化から一気に音楽の扱いが変わったことを意味しています。

レコーディングも凝りに凝りましたが、中期的にレコーディングが行われる場合には、途中でシステムが変更されることが結構頻繁です。特にうちのスタジオですと、世界中からプレゼンテーションが行われるので、新たなスタジオ機材のパースペクティブの更新というものが頻繁に行われます。いわば常に世界のトップと互角に張り合うという状況は、常に監視されているともいえるわけで、恥ずかしい音・スタジオの構成を提示することはできませんから、そういう意味では常にプライドをかけた競争を繰り広げていることにもなります。

こうした環境の中で、新たなピアノ曲の定義というものを、改めて見直した制作をしてみました。現在当社の音楽制作チームは、ドイツのトーンマイスターもいればグラミー賞受賞者も存在します。彼らを纏め、一方向へと向かわせるためには、こうした作品の一つ一つが要であり、彼らを納得させる制作を常に求められるという循環は、結果的に最も優秀な作品作りへと繋がると感じています。


モンゴルのスーパースター、Naagiiのマスタリングを担当しました。同じくモンゴル・アジアで極めて高い評価を得るNaranが来日時にマスタリングにスタジオを訪れ、その後Naagiiを紹介されマスタリングを担当。そしてこの美しいミュージックビデオが作成されました。

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