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  • 執筆者の写真Furuya Hirotoshi

マスタリングPultec EQ – IGS Rubberband

マスタリングEQ IGS Rubberband

IGS AudioのRubberbandが修理から帰ってきて、フルチューニングされたIGSは本当に素晴らしいスキルを発揮しています。アシスタントたちのところにも、同じくこのRubberbandが導入され、それぞれに思うところがあるようです。確かにこのPutec EQというものは、挙動がパラメトリックとは全く異なるのと、他メーカーと一線を画すIGSならではの強烈な個性とサウンドに、

『じゃじゃ馬』

『難しい』

という声が聞かれますが、それほどに可能性の高い濃い口の機材ですので、マスタリングに与える影響というものも相当なものになります。そもそもこの機材は、api500シリーズのフォーマットでリリースされており、マスタリングにはヘッドルームを含め『向いているのか?』という疑問も起こりそうですが、それはマスタリングのどのチェインに含むのかで、扱いは相当に変化するのかと思います。勿論ダイナミックレンジやステレオイメージが広くなる、チェイン後半に差し込むことは似合わない機材でしょうし、ここまでの濃い口というものを纏め役として用いることも考えにくいものです。やはりapi500のフォーマットで作られていることと、ヘッドルームの許容範囲から考えれば、より入口に近いところで用いられることを前提としていることは間違いなく、加えてこの機材の場合はマスタリング全体に与える影響の大きさからすれば、少し混ぜるということを前提としてはおらず、『使いか使わないか』という選択肢に限定されるイメージを持ちます。

特に低音での挙動というものは非常に激しく濃厚で、80年代や90年代のリマスタリングを求められるような場合には非常に有用です。マスタリングで音自体を弄って行く概念がなかった時代の楽曲では、マスターにコンプレッサーやEQなどを少し噛ませるくらいの音調整ですし、昔のオーディオ環境を前提とした音作りをしているので、洋楽であっても低音も高音もレンジ幅がほとんどなく、中域の厚みもありません。更にM/Sの概念もあまりなかったことから、ステレオイメージもかなり狭いものがあります。こうした昔の楽曲をリマスタリングする場合、最も難しいのが中低音の扱いで、強引にBoostしようとしても上がってくるものではありません。またBoostできたとしても、今度は荒々しい音色や飽和状態に陥るために、必ず中低音を整えるためのCutが必要になります。その意味では、独特のカーブを描き出すAttenateの存在は非常に素晴らしく、特にIGSの場合は何とも言えない静けさを演出してくれるところがあります。

その昔、自分のCDを自らでプロデュースした折、あるリファレンスの楽曲に近付けたくて頑張りましたが、どうにもこうにも行き着けない境地がありました。これは結果的に、今となればAttenateの存在があったわけで、当時はプラグインを山程使って楽曲を仕上げていましたのでそれなりの知識というものはありましたが、現在のように実機が発する音を熟知していての制作ではありませんでしたから、ある意味勘任せのようなところがありました。更にはミキシングとマスタリングの違いというものも、今のように明確にわかっている状況ではなかったので、やはりどうしても釈然としないような音で着地するしかありませんでした。

そんな経験からしても、現在のマスタリングEQというものに対しては、明確に『こういう働きをしてもらおう』という目的をもって接しています。特に味の濃い機材に関しては、EQカーブや理論をいくら勉強したとしても、余りに強烈な個性を発するがゆえに、結局の所自らのスキルを上げていくしか方法がないというのが現状です。そのスキルというのは、知識のたぐいではなくあくまで実体験、更には楽曲を通しての音楽表現の能力であり、自らの考える音楽の一部に機材が溶け込んでいかない限りは、必ず壁にぶつかります。特に僕が欧米のマスタリングと違いを明確化するために名付けている『EQマスタリング』においては、音楽表現そのものをマスタリングエンジニアが司るという考え方のもとに行うので、何度も何度も繰り返しのトレーニングが必要になることは間違いありません。実際に僕自身が、EQマスタリングにおいては音の聴き間違いや、楽曲構成の勘違いを起こし、たくさんのミスをしてきたこともありますし、原曲が持っている音色感に引っ張られすぎてしまい、本来行き着かなければならない音に届かないということも沢山経験しました。それら経験が今現在の形となり、ヨーロッパでアワードを取れる所まで来たわけですが、それまでの経験としては燦々たる結果というものを何度も体験しました。それほどに現代のマスタリングは芸術的になっており、少し勉強すれば何とかなるという部類のものではなくなっていますし、そもそもの才能というものも大いに求められる仕事になっていることは間違いありません。

そんな特異な存在になりつつある欧米のマスタリングにおいて、スタイリッシュな音を作れるソリューションの一つが、間違いなくIGS AudioのRubberbandと言えるでしょう。今後も更にこの機材への理解を深めていくのと同時に、様々な楽曲で活躍してくれることは間違いないかと思います。

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