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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

機材レビュー:Kii Audio – Kii Tree導入から少し経って

Kii Treeスピーカー導入

Kii Audio が世界に向けて新世代のスピーカーをリリースした Kii Three、導入から1ヶ月近くが経過したことで、見えてくるものが沢山ありました。これまでに使用してきたスピーカーと言えば、GenelecやRCFそしてYamahaと、一応の王道と言えるものを使ってきましたが、どうにもしっくりと来るものがなく新しい音との出会いを探し求めていました。特に楽曲として複雑な作りをしていたり、裏メロが複数の楽器で鳴らされていたり、或いは大編成であったりすると音像がとにかく見えにくくなり、音の洪水という現象が起きて飽和と言える状態は、マスタリングにおいては絶対に避けたいところです。

そんな状況を長きに渡り経験し、そして世界中の仲間やメーカーとの付き合いから、やっとの思いで探し当てたのがこのKii Threeでした。確かロンドンのKMR AudioのHPに掲載され、目にしたのが初めてだったかと思います。まず印象として感じたのが近未来的であることと、そして圧倒的に高額な値段ということでした。興味はあるけれど、そう簡単には手が出ない・・・そう思えたのを覚えています。

そしてそれから半年ほど経過したときに、Kii Auidoの本拠地であるベルギッシュ・グラート・バッハに行く機会を得ました。SPLやelysiaに出向く旅を計画し、デュッセルドルフに滞在しようと考えていた矢先、Kii Audioの代表メールにダメ元でコンタクトを取ったところ、CEOのクリスから返信メールを貰え、

『デュッセルドルフに来るのであれば、車で1時間のところで試聴させてあげよう』

との誘いをもらいました。デュッセルドルフは工業の街と聞いていましたが、一流メーカーがひしめき合う、正に先進的な地域でした。そして、こんなにも沢山のチャンスを得ることになろうとは、あのときは考えてもみませんでした。

Kii Audio スピーカー

ホテルのフロントまでクリスCEO自らBMWで迎えに来てくれ、彼の別荘に向かうという素敵なシチュエーションで Kii Threeを試聴する機会を与えてもらいました。写真がそのときのワンカット。音を言葉にするのは余り好きではないのですが、まず一聴きした印象としては、とてつもない純音で世界観を作り上げていると感じました。音の印象を景色で例えるならば、物凄く寒く青く透き通った湖に、一滴の水滴がポトリと落ち、美しくも小さな水のアートを聴くがごとく繊細な再現力というものを感じました。

更に凄いのが、この繊細の極みを行くような音質を持ち合わせているにもかかわらず、ステレオで1500wというモンスターでもあるということ、そして6個のツィーターで位相を完璧に処理し、指向性はなくオムニ・ディレクショナルで空間を鳴らしているところも驚愕の技術が導入されていると言えるでしょう。

Kii Audio CEO chris

ワインを飲みながら、素敵な空間で試聴を楽しませてくれた


音楽が鳴り始めてすぐに、クリスCEOがワインを出してくれ気分は更にほぐれ、音を追求する姿勢に入ることが出来ました。クリスが20Hzがリアルに鳴る楽曲を聴かせてくれ、確かにこれまで使用していたスピーカーでは、到底行き着けない境地の低音を聴かせてくれたと共に、何と言ってもその豊かで細部にまで渡る純粋な音像を再生できる能力は、これまでのスピーカーではなし得なかった境地であろうと感じました。

Kii Control

Kii Threeのコントローラー。AES・ADAT・SPDIF・USBなどから、デジタル接続を可能とするDDコンバーターでもある。384kHz or DSDに対応している。


日本に帰り、結局導入までは約1年を要しましたが、遂に当スタジオにも導入ができました。しかもエンドーサーとしての指名も受け、様々なフィードバックからメーカーを支える立場を与えられ、名誉に満ちた船出となりました。

そして導入から約1ヶ月が経過した現在、大分スピーカーとしてのスキル、聴き方、用い方というものもノウハウが構築されてきたように思えます。今回当スタジオには230vの電源が引いてあるため、本国でチューニングされたサウンドそのままの状態で使用できる環境にあります。これは計り知れないメリットです。どんなに仲の良いメーカー側の担当者やCEOも認めませんが、電圧をスイッチ一つで230vと115v、若しくはユニバーサルで対応しようにも、絶対に音は変化してしまいます。100vでチューニングされた機材ならまだしも(そんな欧米機材は皆無と言って良い)、基本は230vで駆動することを前提とした基盤とチップであれば、トランスで上手く処理したとしても影響というものは少なからず絶対に存在します。なので、当スタジオでは230vを基本とし、メーカーが本来望むであろう基本性能というものを引き出せるように努めています。

その中での環境ということになりますが、あの純粋と思えた信じ難いほどのHi-Fiサウンドは、見事に当スタジオでも健在です。むしろスタジオであるが故に、ルームチューニングも完璧に施されているため、ある意味露骨にその美しき純音というものを感じ取ることが出来ます。384kHzに対応しているということは、理屈から言えば192kHzまで再生可能ということでもあり、20kHzまでしか聴力のない人間にとっては限界値などはるかに超えています。しかし、限界値として20kHzを意識して音楽制作を行うことなど、すでにプロの現場としてはありえないことです。ハイレゾが一般化された昨今、聴こえる聴こえないに関わりなく、明らかにハイレゾは音質が異なります。その驚愕の音質を市場が求めるのであれば、我々はその先の先を見越して音楽を制作する必要があり、また自らの理想とするものも先の先に存在したために、正にベストソリューションと言えるスピーカーがKii Threeだったと言えるでしょう。

このキメの細やかさというものは、マスタリングにおいては命であると言えます。各パートの楽器がどのように演奏され、如何に楽音が作り上げられているのか?また作曲者の意図、編曲者の意図を垣間見ながらマスタリングを行っていくため、細かいフレーズが聴こえてこない、若しくは聴こうと意識しても、更にはEQでそのパートを表に出そうと努力しても、詳細な情報が見えてこないというのは致命的です。理想は嫌が顔にでも各パートの詳細な音が聴こえてきてしまう、或いは特に意識していなかった音が、ひょんなことから急に目立つようになり、そこへ補正をかけたくなるようなスピーカーであるとともに、何と言っても音楽的美しさを持ち合わせていることが重要です。加えてパワーはあったとしても、楽音が破綻したときにはレスポンス良く破綻をきたし、正直にその破綻を再生してくれる必要もあります。パワーと繊細さというものの共存は難しいはずですが、Kii Threeは正にこれらすべての要素を持ち合わせており、信じがたいほどの解像度と音色の美しさを共存させています。それ故に、マスタリングをする上では、音量を非常に絞ることが出来、微細な音も聴き逃さない作業環境を手に入れることもできました。

マスタリングスタジオというのは、最終チェックポイントでもあり、リスナーとしての立ち位置としても最高峰である必要があると思っています。それは当スタジオがコンサルティングに入ることのある、数千万円を投じて作られる音楽室でも再生されることを考えると、プロとしてはそれ以上のセンシティブを持ち合わせた環境と感性が必要であるのは言うまでもありません。音楽愛好家達からの高いレベルの要求を知るからこそ、私達は更に上を行き要求に応え、更には彼らの期待する『音楽的な何か』をプラス@で提供する必要もあります。

これら背景を考えるときに、今の所プロ機材として認められるのはKii Three以外に私は知りません。先進性という意味では、これ以上進んだものはないはずだし、これから発売される低音におけるエクステンションスピーカーであるBTXを付加することで、更に垢抜けたサウンドの構築を可能とするのでしょう。BTXについても既にクリスCEOと導入の話し合いになっており、今後の活動において大きく音作りをサポートしてくれるはずです。

新年に行った数本のマスタリングと共に、Kii Threeのレビューをお届けしたいと思います。

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