ロンドンの超一流ドラマー、チャック・サボ
プロデューサーとサウンドエンジニアを両立する音楽関係者は、欧米の音楽シーンではよく見る光景です。私自身もまさにそうした人物たちと同じ立場にいるわけですが、指揮系統として日々世界の超一流アーティストのレコーディングに立ち会うチャンスに恵まれます。自らでレコーディングするのか?或いは現地のエンジニアに任せるのかは毎回スケジュールや楽曲の方向性で考慮することですが、何と言ってもその『サウンドそのもの』に触れるチャンスを多数持ち合わせていることは、何よりもの財産だと感じています。
例えば、エルトン・ジョン、ブライアン・アダムス、ペットショップボーイズ、チャカカーンなどのサポートドラマーとして著名なロンドンのチャック・サポ、更にはロッド・スチュワートやジョー・コッカーのツアーギターリストである、ゼィブ・シェルブのサウンドを毎日のように聴き、毎日のようにミキシング・マスタリングを繰り返しながら、更に楽曲の可能性を引き出す仕事ができるのだとすれば、それはどれ程感性を揺さぶられるものか想像つくでしょうか。
若い時分からこうした仕事に恵まれ、20代の中盤辺りからリチャード・クレイダーマンに始まりユンディ・リやウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ウラディーミル・アシュケナージなどクラシック音楽(クレイダーマンはイージーリスニングですが)から、ダイアナ・ロス、クリストファー・クロスなどの大規模なツアーを行うアーティストたちの音を間近で聴くチャンスに恵まれてきました。
たまたま高校生の頃に入った音楽事務所が、その当時海外アーティストたちの招聘を行っていたので、大御所のアーティストには初期のころから馴らされていました。そんな中でも憧れが強かったのがエルトン・ジョンで、大学生になった直ぐのころにライオンキングを彼が手掛けて、一躍映画界でも彼の名が轟いたのを覚えています。そしてそんな折に来日してきたエルトン・ジョンのツアーにおける武道館でのPAを、ADとして手伝う機会にも恵まれました。そんなことから、ライオンキングとエルトン・ジョンという2つの要素は、自分にとっては永遠の憧れであったのですが、何とそこから20年近く経過して自分があのライオンキングの折のドラマーと、しかもプロデューサーとして仕事をするに至るとは思ってもみていませんでした。
そして今こうして世界を舞台に各国で仕事をするようになり、彼らとのリレーションが成立するのは、年若い時からずっと積み上げてきた超一流のアーティストたちの音を間近で聴き続け、彼らから学んだからこその価値観が構築されているからこではないかと感じています。
これから世界に出たいと思っている人、また若い人たちに伝えたいのは、どうやってスーパーメジャーたちの生の音を聴くか?そこに照準を合わせると良いかと思います。僕だって最初はただ指をくわえて彼らの音楽を聴いていただけの人でした。でも、その音楽を一緒に制作する人間として加わりたいと思ったとき、兎に角彼らの近くに行きたいと思えば、必ず到達点というものは見えてきます。どうやったらエルトン・ジョンのレコーディングされた各トラックを聴けるのか?チャック・サボのドラムマルチ音源とはどういうものなのか?聴かないことには分からないことだらけです。また、聴いて理解しなければ、世界の価値観というものに足並みをそろえられません。
チャンスは必ずありますから、あとは自分でこじ開けるだけです。兎に角聴いて聴いて聴きまくって、自分を世界の価値観に完全一致するところまで持って行ければ、きっと世界からのオファーというものにも恵まれるかと思います。近道はありませんし、世界の壁は想像以上に分厚いはずです。そう簡単に牙城は崩せませんが、それでも入って行く価値のある世界です。
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