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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

ピアノの音色に求められるもの

様々なフィードバックを、どう実務に投入するのか?

レコーディング中のスタインウェイピアノの写真。ピアノの音色における最高峰は、レコーディングにこそあると考えられる。最高峰からのフィードバックは、音色における最高の哲学を形成する。

今回は、具体的にピアノの音色というものにスポットを当てて、どういう状況下でどのような音が求められるかについて述べてみたいと思います。そして当社のコンセプトとする、最高峰とされる場からのフィードバックは、どのようにして行なわれるのでしょうか? ピアノが使用される場所は、大きく分けて3つに分類されると認識しています。コンサート・ライブ、レコーディング、そしてご家庭に設置されているピアノです。もう少し説明を付け加えると、コンサート・ライブは実演を観客の前で行うもの、レコーディグは記録媒体、そしてご家庭はサロンも含めてご自身や身内が楽しむものと定義できます。 これまでの経験からして、ピアノが最も酷使され且つ最もシビアな内容が求められるのはレコーディングです。音源というものは、一度リリースされると半永久的に残るものとして、また歴然たる一つの作品として評価されるものなので、その場の雰囲気やノリで制作が進行することはありません。息を殺すように、一音一音を折り重ねていくような繊細さが求められ、ピアニストの呼吸や椅子のキシむ音までが、収録されていきます。またレコーディングほど、ピアノが過酷な状況で使用されるというものはありません。長いときは休憩を入れながら、8時間以上ピアノは可動しっ放しで、調律が狂ってしまっては作品としての価値を下げてしまうがゆえに、ひっきりなしに調律も繰り返えし行なわれます。音は様々に好みや方向というものがありますが、どちらかというと最新のピアノではなく1970・80年台のものが好まれる傾向にあります。制作の殆どがスタインウェイで行なわれる昨今、スタインウェイをベースにホール選定を行いますが、演奏者から出されるオーダーの多くは、 『細かくも細い倍音のピアノ』 と表現されることが多々あります。スタインウェイであればダイナミックであることは当然で、それ以上に繊細な音を求めるため、遥か彼方のホールまで出向ことも頻繁です。 またコンサートやライブでは、まずはトラブルの発生がないことを前提としなければなりません。それ故に、音重視というよりは耐久性に目が行きがちで、音の繊細さというものは案外度外視されているようにも思えます。稼働率の高いホールが、ピアノを頻繁に買い換えるのもこの為ともいえ、より若いピアノで演奏会を開くことが最もリスクを低めるという考え方で構成されているようにも思えます。ですので、”音色”という概念からすると、幾分その要素は薄れる傾向にあると言えるかもしれません。そのために、レコーディングではわざわざ地方のホールを渡り歩き、良いピアノを求めて旅することも必要になるというわけです。 これらを総合し、音色に話を絞ってみましょう。冒頭で述べたように、最も求められるものの要素が多いのは、レコーディングです。半永久的に残る作品の制作は、正に作品に携わる誰もが耳を研ぎ澄まし、ありとあらゆる要素を音源の中に取り込もうとします。制作の場は修羅場と化す時もあり、至高の音を求めプロデューサー、ディレクター、エンジニア、そしてアーティストが最高のパフォーマンスを発揮します。このような状況の中で、ピアノがどれほどのものを求められるかは、想像に難しくはないはずです。 以上のような状況を考慮することで、私たちの考えるピアノの音色における最高峰は、レコーディングに使用されるピアノという一つの回答を提起しています。そして、如何に最高峰のピアノの音色というものを、第三のピアノ設置場所として挙げた、ご家庭のピアノにフィードバックするのが、私達の使命であるとも考えています。ここでの啓蒙こそが、私たちの考える欧米本来の音というものを知って頂く、絶好の機会だと考えているからです。 通常こうした最高峰の世界というものは、一般的に程遠い世界という認識かもしれません。本国での音楽的トレーニングは勿論、才能に支えられた感性や技術が投入されたピアノは、確かに一般的なピアノとは全く異なる音色を有しています。先に述べた”細い倍音”や”鋭い倍音”若しくは、ダイナミックレンジを確保されつつも、非常に繊細な音色を構成しているなど、演奏者にとってそれは全く違う景色を見ているかのように、感じられることでしょう。 日本では中々浸透していない考え方ですが、欧米本来の価値を国内で構築していくことこそが、本来ピアノに求められる音色であると考えています。

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