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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

ニュルンベルグ – Iglのスタジオへ –

ニュルンベルグを軸に活動するIglのスタジオ


この頃になると、ぎちぎちに詰め込んだスケジュールのお陰で、かなりキツイ日々を過ごしていたかと思います。この日は起点としていたデュッセルドルフから、朝7時の飛行機でニュルンベルグに来ました。目的はこの人、Igl(イーグルと読みます)のスタジオに来るためです。IglはイギリスのSound on Soundでの執筆をはじめとして、ヨーロッパではかなり知られている人物です。また、ヤマハの仕事でドイツ語から英語への翻訳をしているとのことで、英語単語がやたらに難しかったのも覚えています。余談ですが、たまに聞くことのある英語に日本語みたいな表現力がないなどというのは、ちょっとした噂話みたいなもので、実際は日本語よりも精密に英語が表現できる部分もあったりします。表現の手法が違うだけで、実際はその殆どを精密な語彙力によって英語は説明してきます。語彙力という分野だけで考えれば、むしろ英語のほうが日本語よりも数があるはずです。

さて、少し話がそれましたが、翻訳の仕事をしているIglだけあって、やたらに語彙の難しい英語を話す彼ですが、そのエンジニアリングというものは素晴らしいものがありました。当初は彼から勧められていた機材を見に来た部分もあったのですが、むしろ自分よりも若手のエンジニアに自らの経験と知恵を授けるような話し方をしてくれていました。

Iglが使用していたのは、ドイツ国内で作られたというコンソールでした。EQもコンプレッサーも付帯していて、非常に素直な音色だった印象があります。様々に彼が手掛けた案件を聴かせてくれ、兎に角何もかもがレベルが高いと印象付けられたスタジオワークでした。特にフュージョン系のサウンドを聴かせてくれた折には、正にImpressive soundingという印象を受け、スネアがど真ん中で鋭く楽曲を刻む様相は、

『このレベルの曲を、日本で今後聴くことがあるのだろうか・・・』

と心に思ったことを覚えています。

ハードギアについても様々に話してくれました。コンプレッサーの考え方、バスに掛けるとき、アイソレートのトラックに掛けるとき、スネアは?キックは?・・・世界を席巻する楽曲の構成方法を、次々に話してくれました。こういう場でまずは音に触れないと、本来行き付かなければならない境地へは中々辿り着かないな・・・とも感じました。

休憩でスタジオの表に出ると、目の前が美しい湖です。昼食が終わったころには、時差ボケと疲れでもうヘロヘロでした。余りにきつかったので、30分貰い仮眠させてもらいました。

本当にきれいなところです。

さて、スタジオに戻り今日の本題のAD/DAコンバーターの聴き比べに入りました。Iglは再三にわたって、シグナルの強いAD/DAコンバーターについてメールで話しかけてきてくれ、

『今でも十分に満足している』

という趣旨の発言をしてきたのですが、彼がどうしても聴いて欲しい機材があるとのことで、このスタジオにやってきたというところもありました。そしてAVIDやSSLのコンバーターを聴いたのちに、

『さあ、これで聴いてみよう』

という話になり、楽曲を流してもらった折に僕は、

『バスにコンプレッサーが掛ったままだよ』

と言いました。彼は大笑いして、何もないという仕草をし、どれほどそのAD/DAコンバーターが優れているかを語り始めました。輪郭がはっきりしており、明確な発音から聴きとれる微細な音というのは、あまり聴いたことのないサウンドと言えました。確かに、これまでもキックやベースが飽和状態に近づき、スペクトラムのゲージでは十分な低音が出ているように見えても、どうにも物足りなくハードギアのEQで上げようとして全然足りない・・・そんな経験をしたことはありました。それがIglが使用しているというコンバーターを使用したところ、所謂飽和状態というものは全く起きなく、強力な音色の中にも一つ一つの楽器がしっかりと浮き上がる力強さを持ち合わせていました。これはコンバーターが150dBものレンジを持ち合わせているとのことで、SPLの120vフォーマットの機材群同様、とてつもないダイナミックレンジが奥深い音を作り出す新時代へと突入していることを知ることが出来ました。

そのコンバーターがどのメーカーのものなのか・・・などの情報公開は、エンドーサーの話ももらっていますので諸事情がハッキリしてからにしたいのですが、次世代の音というものは常に新たに作り続けられていることを改めて感じさせられました。常にこうしたアップデートというものを続けながら、非常に多くのケーススタディを持ち合わせている魅力はとてつもないと感じさせられます。このドイツ国内を中心に進められる最先端の音作りというものを、イギリスやアメリカが追いかけることで、世界のスタンダードが作られるという仕組みが出来上がっています。なぜドイツがここまで強いのかを再度垣間見ることが出来ましたし、彼らの優秀さというものを再確認することもできたIglとの時間でした。

絶版になった名機もあり、色々と面白いものを見せてくれました。

スタジオを出ると、直ぐに湖というのは何とも言えない落ち着くムードを漂わせています。

お伽の国のような風景が続くニュルンベルグでした。

大好きなドイツのペッパーソース・ステーキ

デュッセルドルフへの帰りの飛行機は、何故かプロペラ機でした。今まで何百回と飛行機に乗ってきましたが、プロペラ機は初めて乗りました。因みにヨーロッパ内での飛行機は、ユーロウィングスを使いました。

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