お客様からお預かりしていた、ヤマハ・グランドピアノC3の修理が完了しました。当社の場合は、修理というよりは企画・販売しているコンプリート・グランドピアノの色合いのほうが強く、どちらかといったらモデファイを施したという要素のほうが強くなります。 ハンマーアッセンブリーは、ドイツの何時も付き合いのあるマイスターにお願いし、物凄い精度で仕上げてきてくれました。ウィペンも同じく、ドイツから取ったレンナー社のものに変更。その他弦・響板はレンナーとレスローのコンビネーションで、この辺りのチョイスは鉄板です。その他の変更箇所としては、ブッシングクロス類、ペーパーパンチング、キャプスタンボタン、バックチェックなど、所謂ほぼ全交換という状況です。パーツはドイツ・アメリカから輸入し、ノウハウの殆どはスタインウェイ本社OBのスター調律師達が提供する、 Piano Technician Masterclasses で得られた情報源をもとにしており、整音も自らKen や Stefanからの教えを基に行っています。 パーツ交換は確かにマテリアル(素材)として、部材そのものを交換するので、補修という意味も含め可能性を高めるのですが、しかしここでパーツの交換に目が行き過ぎてしまうと、本当に単なるパーツ交換で終わってしまいます。 パーツ交換を行うことで、確かに可能性は高まりました。では、その可能性をどう用い、フリーハンドで音色を仕上げていくのか? 何を基準として、美しく音を作り上げて行くのかに、最も注目・注力しなければなりません。ここが日本人の最も苦手とする所で、何の仕事においても、どういう音にするのか?という立体的な前提に立った考え方が出来ていないケースを多く見受けます。なので、欧米のセンスに何時まで経っても追いつけないフシがあり、何度も書いてしまいますが和風のピアノの音が形成されてしまいます。 ここでキーワードにしたいのが、基準となる音が調律師の中に如何に形成されているかになります。ピアノの状態というものは、ケースバーケースですし、通り一遍に『こういう調整・整音』で通用するわけではありません。種々の要因から基準となる音へ向けて、作業内容を逆算していく能力が必要になります。この逆算は、基準となる音が自らの中にあってこそのものであり、そう簡単に身に着けられるものでもありません。才能に裏付けられた、濃密な経験を積み上げる必要があります。 修理やオーバーホールといっても、ここには必ず音色を形成する上での、徹底的に理論と才能で組み上げられた、絶対的で揺るがない音色が、調律師側に構築できているかで決まってしまいます。そうしないと、パーツは交換したが、野暮ったいピアノが完成することとなり、日本のピアノは兎に角この野暮ったさが、市場を席巻しているという事実も見逃せないところです。 世界最高峰の音作りというものを体験することで、様々に見えてくる現実いうものもあり、この辺りは私たちが啓蒙しなくてはいけない箇所かと思い、書き添えさせて頂きました。
Furuya Hirotoshi
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